リラクゼーションケアの活用 メイクアップ療法 第2回

現代における化粧および心理的効用

現代において、化粧は「スキンケア」と「メイクアップ」という2つの異なる側面を持ちます。
スキンケアは、基本的には、自己や自己の身体(お肌)を慈しむ行為です。 加えて、お手入れ、健康維持という目的も含まれます。
一方、メイクアップには、他者に対して自分らしさ……個性を表現する行為です。
並びに、化粧を施している自分を見る他者を想定し、他者に対して、自分らしさ……個性をアピールする行為を伴います。
この様に、化粧は側面で「他者との対峙を目的とした性質」を持っています。

社会的心理面における化粧の効用

化粧をケアの一貫として捉える研究として、心身に疾患を持った人やフランスなどでは、顔に傷などを持った人を対象にする臨床的研究があります。
最も古い研究は、フレグランスジャーナルで紹介されている『メイクアップの労働負担緩和効果についての研究(1965)』だと言われています。
この研究は、化粧心理学を語る際に欠かす事のできないものです。
現在では、化粧の効用として、太田母斑などのような外観に障害を持つ人、また、老人性認知症を中心にうつ病や統合失調症など、精神に障害を持つ患者の症状改善に役立った、という報告がなされています。

また、化粧を臨床現場に適用する主たる効用としては、情動の活性化、食欲の増進、認知の一時的改善などといったポジティブな効用が認められています。
生理的作用としては、スキンケアとの相関性から、スキンケアが日常生活で降りかかるストレスを緩和し、「本来の自分を取り戻す」機能としての効果を持つことも分かってきました。
このように、「手を当てて」触れるという行為は、当てた手の「ぬくもり」から安心感が得られ、心もリラックスして気持ちが落ち着くという結果を導きます。
更に、リラックスできると交感神経の亢進が押さえられ、脳内の生理活性物質の分泌が増加し、より感情が穏やかになり、美肌ホルモンも出やすくなると言われています。

また、女性の身体的、肉体的な変化を表す指標として、肌状態が心理的にマイナスの時は肌も乾燥し、シワやシミもできやすく、楽しい事や嬉しい事や恋をしている状態の時は、潤いも保たれハリやツヤがある事も検証されています。
このような事は、女性であり自分の肌に関心のある人であれば、自分の日々の経験からも納得できるのではないでしょうか?

社会的には、化粧は容貌変容、印象管理の一環として捉えられ、対人コミュニケーションや社会的スキル、性役割といった観点から認知されていいます。
化粧を社会的スキルとみなし、一連の研究結果からみると、基本的に化粧の心理的作用は二つあります。
第1は、自己満足と対人的な効用といえる役割です。
第2は、自己呈示を通じてなされる自尊心の向上であり、最終的には他者からの評価向上による満足感です。

化粧の効用は、先ず、自身が肌を触る行為でも実感できます。
例えば、毎朝「鏡」を見て「今日も綺麗!」と確認する事で、その日の自分のモチベーションアップにも繋がります。
肌の状態が良ければ、メイクをしなくても素肌美を『特定の他者』に対峙する事ができるし、メイクを施せば、余計に化粧のりが良くなるという作用があります。
人は、美しく変貌した自分の顔をあらためて鏡で見ることで、自己内にある『自分自身を見ている仮定された他者』と先の『特定の他者』という2つのレベルの他者が存在します。
これは、化粧をする際に2つのレベルの他者を、場の要請に応じ使い分けていると考えられます。
対人面においても、綺麗に化粧をした人を見た人達は、間接的にその「美」を共有でき、対峙する『特定の他者』は、化粧した行為者の「その人らしさ=個性」を読み取っているのです。
つまり、病院や高齢者施設で利用する場合、化粧を施す側が、『特定の他者』からの視線と、『自分自身を見ている仮定された他者』とを、意識し、利用することで、病気が原因で日々を塞ぎこむ患者を明るく過ごさせる可能性も見えてきます。
「キレイね!」 という他者からのフィードバックの言葉は、社会への繋がりを思い出させてくれる原動力になるとも言えます。